2018年大河ドラマ「西郷どん」を見ていると、「チェストォォォ!」と叫ぶシーンがたくさん出てきます。
物語の最後には、
「こよいはここらでよかろうかい・・・せごどん、チェスト!キバレーーー!」
という西田敏行さんのナレーションでしめられますね。
では、この「チェスト」とは、どんな意味があるのでしょうか?
そして、鹿児島ではこの「チェスト」という言葉を使っているのでしょうか?
実はこの「チェスト」の意味や語源には、いくつかの説があります。
この記事では、西郷どんに頻発する「チェスト」について深堀していきたいと思います!
西郷どん「チェストー!」はどの場面で使われる?
鈴木亮平さん演じる西郷吉之助はもちろん、郷中の仲間や薩摩藩士、家族である女性陣からも「チェスト!」を聞くことができます。
シーンから読み解く限りでは、気合を入れるシーンや、相手を鼓舞するシーンなどで使われていますね。
西郷どん第31回「龍馬との約束」のラストでは、瑛太さん演じる盟友・大久保一蔵が「チェストー!きばれ」と吉之助を励ますシーンが話題になっていました。
それを受けた吉之助も「チェストーーー!」と腹の底から叫んで答える名シーンでした。
これってなんと!
お二人のアドリブだったんですって!
「チェスト!」の語源は諸説ある
この「チェスト」・・・
実は意味や語源が明らかになっていないんです。
いくつかの説がありますので紹介しますね。
「強くすっど」語源説
まず一つ目が、「強くいくぞ」という意味の込められた「強くすっど」が縮まり「チェスト」になったという説です。
意味合い的にはバッチリですが、ちょっとばかり無理があるのでは・・・という印象ですね^^
「胸をねらえ」挑発説
薩英戦争の最中、英国兵と戦った薩摩兵が「チェスト(胸)をねらえ」と自分の胸を指さした・・・という説もあります。
想像するに挑発的な意味合いで、「かかってこいよー!」といったところでしょうか。
確かにデジタル大辞泉で調べるとこのように出てきます。
チェスト(chest)
1 子供や男性の膨らみのない胸部。→バスト
2 整理だんす。大型の収納箱。
ただ、薩英戦争は1863年(ちなみに西郷吉之助37歳)ですから、歴史的には比較的新しいので信ぴょう性はないのかなと思いますね。
「強人」をチェストと読む説
薩摩の方言で「強人」と書いて「チェスト」と読むという説があります。
しかし、実際に鹿児島の方がこれを「ちぇすと」と読むのかは未確認です。
少なくとも若い世代の方は読まないようですね。
「知恵を捨てろ」語源説
いちばん有力だと考えられているのがこの説です。
“何も考えず無になれ”といった意味での「知恵を捨てろ」が、早く言うと「チェスト」になるというもの。
現に薩摩藩を中心に伝わった古流剣術「示現流(じげんりゅう)」の心構えのには「知恵を捨てよ」というものがあります。
示現流は髪の毛一本でも早く打ち下ろす(『雲耀』うんよう)という教えがあります。
そのために、あれこれと考えている暇はない、・・・という意味で「知恵を捨てよ」といったのかもしれません。
「ちえをすてろー!」
↓
「ちえすてろー!」
↓
「ちぇすと―!」
意味合い的にも、言葉の響きからも、この説が有力なのは納得です^^
「チェスト」と「示現流」との関係
「示現流(じげんりゅう)」とは、薩摩藩を中心に伝わった古流剣術です。
西郷どんの第1話で、郷中(ごじゅう)制度という薩摩藩の武士階級子弟の教育法の説明がでてきました。
横に結わえた木の幹を、これまた木の枝でバシーッと振り下ろすといったものです。
示現流の稽古
これは示現流の訓練のひとつです。
正式にはユスの木を適当な長さに切って木刀として、「蜻蛉(とんぼ)」と呼ばれる構え(左足を前に出し、木刀を持った右腕を耳の上まで上げて左手を軽く添える)から、立木に向かって気合と共に左右激しく斬撃するものだそうです。
流祖は東郷重位という戦国時代の薩摩藩の侍で、現在でも宗家は13代を数え続いている歴史ある剣術なんですね。
新選組の近藤勇も恐れた⁉
江戸後期、島津斉興より「示現流は薩摩藩内の御流儀」と称され、基本的に藩外の人間に伝授することが禁じられていました。
幕末には、あの新選組の近藤勇さえ恐れ、隊士に注意を促したといわれる示現流。
その秘密はこの剣術の攻撃性の高さにありました。
「一の太刀を疑わず、あるいは二の太刀要らず」
これは、最初の一撃に全力をかけて、相手を一刀で斬り伏せることを意味します。
(これを受けて、一の太刀さえ外せば示現流は無力だという説もありましたが、実際は二の太刀もあり俗説に過ぎないようです。)
示現流はその稽古をひたすら行うのが特徴です
流派の一つ「薬丸自顕流」の斬撃時は「キェェェェェーーー!」という猿のような金切り声のような雄たけびを上げます。
これは気合と同時に声で相手を威圧するものだそうです。
さらに立木を激しく斬撃する稽古を繰り返すため、薩摩で煙が出るといわれ恐れられたという説もあります。
残念ながらこの時の掛け声は「チェストーーー!」ではなかったようですね。
「チェストー」は気合の叫び⁉
薩摩藩が用いた剣術「示現流」の教えから、「チェスト」という言葉が生み出されたという説はかなり有力ですが、実際に「チェストー」といったのでしょうか?
示現流宗家12代の東郷重賢さんはこのように語っています。
「チェストいうのは、猿叫(えんきょう)と呼ばれる気合の叫び、自分を鼓舞するときに使う叫び声です。戦が始まる前に自陣で「チェスト~!」と気合を入れます。「それゆけ」という心の底からの叫び声ですよね」
しかし実際に斬るときは「キェェェェェ!」という叫び声になります。
これは現在の示現流の稽古でも同じですね。
まとめ
西郷どんに度々登場する「チェスト」の意味についてまとめてきました。
戦のなくなった現在では、実際にどのように「チェスト」という言葉が使われていたのかハッキリとはわかっていません。
語源も諸説あり、定説もないからです。
個人的には、やはり示現流の心得えである「知恵を捨てよ」語源説がいちばんしっくりきますね。
無の境地になるための「チェストー!(知恵を捨てよ)」は、一刀にすべてをかけ斬りつけるための必要な戒めだったのかもしれません。